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ソーシャルアクション『社会の潮目』

「経営に関するヒト・カネ・チエの生態系を創り、社会に創造と変革を行う」というビジョンを掲げるグロービス。なかでもMBA学位を授与するグロービス経営大学院は、東京・大阪・名古屋・仙台・福岡の全国5か所のキャンパスとオンラインでプログラムを提供し、ビジネスリーダーを育成・輩出しています。社会活動にも力を入れ、東日本大震災直後に発足した「KIBOW」では、2015年に日本でいち早く「社会的インパクト投資」を開始しました。その取り組みについて、インパクト・インベストメント・チームディレクターの山中様にお聞きしました。

 

一般財団法人KIBOW http://kibowproject.jp/


 

(掲載日:2016/1/20)


被災地の「希望」と世界との「Rainbow(架け橋)」を目指して

【友田】 「KIBOW」の発足について、教えていただけますでしょうか。

【山中】「KIBOW」は、2011年3月14日にグロービス代表の堀義人を中心に、有志が集まって発足した、救援・復興支援プロジェクトです。「私達に何ができるだろうか」と仲間と共に考えることからスタートし、被災地の「希望」になることと世界との「Rainbow(架け橋)」になることを願ってきました。2012年2月には、一般財団法人化しました。これまで、日本の起業家や各界リーダーの方々などからも力をお借りし、資金を出し合って被災地の支援を続けてきました。

【友田】 震災から4年半が過ぎましたが、具体的にどのような活動を続けてこられたのですか。

【山中】活動の柱はインパクト投資以外に、2つあります。一つ目は、岩手・宮城・福島・茨城など被災地での交流の「場」の提供です。これまで29地域で45回、地域の復興を願う人たちが集うイベントを開催して、地域内外のリーダーたちが交流できる「場」を作ってきました。
 2つ目は、被災地で活動するNPOや各地のリーダーへの寄付金の提供です。2015年9月までに、のべ1500名ほどの方々から約1億円の義援金を集めました。この資金は、のべ102団体に提供し、各地で新事業を展開する機会につながっています。
 一方、2012年に開校したグロービス経営大学院仙台校では、「ダイムラー・日本財団イノベーティブリーダー基金」の協力を得て、2013年に「東北ソーシャル・ベンチャー・プログラム」を開講しました。受講生は、魚を売る人や牛を飼う人などさまざまで、累計100名に達しました。ここから、東北復興に情熱を燃やす約30名の起業家を輩出しています。受講生、講師、KIBOWリーダーズが手を取り合い、またイベントなどを通して、活動の輪を広げてきました。

 

「KIBOW社会投資ファンド」を設立

【友田】 2015年には、新たな取り組みを始められたそうですね。

【山中】9月に「KIBOW社会投資ファンド」を設立しました。これは、「社会を変える」という志を持った起業家に「社会的インパクト投資」を行うもので、被災地以外の地域も含めた日本全国を対象にしています。この投資は、社会的な利益と経済的な利益の両方を追求するものです。これまで、海外支援をターゲットにしたものや、被災地特化型のものはあったのですが、日本国内全体をターゲットにしたものは初めてです。社会の変革を加速させるためには、社会課題の解決を目指す起業家の成長を支援することが近道なのです。
 グロービスでは、1996年からVC(ベンチャー・キャピタル)投資をしてきました。これまで投資家の資金が流れ込むのは、利益の出る可能性があるベンチャー企業であり、社会起業家は投資対象になりにくかったのです。しかし、特に震災後、多数の社会起業家が現われ、投資家の出資を受ける例が出てきました。彼らは、強い拡大意欲を持ち、社会的インパクトを大きくしようとする「インパクト起業家」です。「社会的インパクト投資」は、国内の民間資金が社会の変革のために使われるという新たな仕組みであり、グロービスの投資の経験とビジネスリーダーの育成経験が活かせる機会だと思っています。

【友田】 「インパクト起業家」とは、おもしろい名称ですね。社会を進化させていくのは、尖ったことをしてみたり、世の中で遊ぶ心を持っていたりする人たちだと思っています。
 そもそも「社会的インパクト投資」とは、世界ではどのように始まったものなのでしょうか。

【山中】まず「インパクト投資」という言葉の意味から、ご説明させて下さい。インパクト投資は、社会的リターン目的、つまり社会を良くするための投資の一種です。社会的リターン目的を持ち、事業を拡大してそのリターンを極大化する狙いを持ち、そして同時に投資の経済的リターンについても希望を持つアプローチを、「インパクト投資」と言っています。アメリカでは、1998年に財務リターンをまったく求めない「ベンチャー・フィランソロピー(VP)」が広がりました。その後、2007年にロックフェラー財団のアントニー・レヴィーン氏が「インパクト投資」のコンセプトを提唱し、グローバル・インパクト・インベスティング・ネットワーク(GIIN)を組織しました。メンバーはすでに200を超え、さまざまな投資が行われています。
 そして、2013年にイギリスのキャメロン首相の主導で「G8社会的インパクト投資タスクフォース」が立ち上がりました。議長のロナルド・コーエン氏は、エイパックス・パートナーズの代表であり、1999年にグロービスとエイパックス・グロービス・ジャパン・ファンドをスタートさせていました。そのつながりから、コーエン氏が当財団代表理事の堀義人に、日本国内の社会的インパクト投資の活性化を要請し、「KIBOW社会投資ファンド1号」を設立する流れになりました。

【友田】 これまで日本では、どのような社会起業家の育成と資金提供がなされてきたのでしょうか。

【山中】私の知る限りでは、2002年にETIC主催の「NEC社会起業塾」が始まり、プログラムの支援を受けた起業家が増えてきました。また、社会のさまざまな課題解決を研究する慶応大学SFC(湘南藤沢キャンパス)の卒業生も活躍しています。資金の面では、2012年に設立された三菱商事復興支援財団は、資本に近いローンでの資金提供を行い、被災地でインパクト投資的なアプローチを始めていました。

【友田】 「社会的インパクト投資」の対象と投資資金について、具体的に教えてください。

【山中】対象は、被災地を含む地方創生、医療・介護・高齢者、育児・子育て支援、貧困問題、環境保護、海外支援・協力を行う国内団体など、さまざまです。条件としては、重要な社会課題の解決を目指す起業家であること、高いポテンシャルを持った経営チームが運営する団体であることです。また、事業の売上が立ち始め、それを拡大するための資金を必要としている段階が適しています。たとえ赤字の場合でも、投資に対して財務的なリターンが可能であれば、対象になります。
 投資資金は、1件あたり1000万~5000万円規模で、ファンド総額は5億円、ファンドの存続期間は20年間です。株式への出資を基本としていますが、NPOの場合は、新法人を設立した後に出資することもできます。これまで寄付金は、最大100万~500万円でしたから、社会を変えようとする起業家の可能性を徹底的に信じた投資と言えます。

【友田】 さまざまな条件があるようですが、投資の対象者が限定されるということはありませんか。事前に、起業家の資質を上げるトレーニングの機会を設けることができれば、社会起業家の予備群が育ち、対象者が広がるのではないでしょうか。

【山中】おっしゃる通りです。グロービスではこれまで、仙台校のみでソーシャル・ベンチャー・プログラムの講義を行ってきましたが、今後は、東京、大阪をはじめとする全国のキャンパスやオンラインで、社会起業家教育を始めます。開講によって、教育と投資が連動できればと考えています。

 

地域に愛される企業が社会を良くする

【友田】  「KIBOW社会投資ファンド1号」の投資先について教えていただけますか。

【山中】  宮城県塩釜市・石巻市を中心に活動する「愛さんさん宅食株式会社」は、高齢者向けに弁当の宅配を行う企業です。仙台校の卒業生である小尾勝吉さんが代表を務めています。小尾さんは、震災後に被災地に入り、起業準備を進めてきました。食べることに強い思い入れがあったお母様を亡くされたことがきっかけとなり、「家族愛」を理念に会社の立ち上げを決めたと言います。(この経緯については、「GLOBIS知見録」に書いたことがあります。http://globis.jp/article/1442
 私は常々、起業家には「考える力」「行動する力」「コミュニケートする力」の3つの力が必要だと考えていましたが、小尾さんは、「コミュニケートする力」が特に優れている方です。エンジェル(個人の投資家)やセントラルキッチン(大量の調理を引き受ける施設)の協力を得るなど、確実にアライアンスパートナーを見つけてきました。きっと、根底にある大きな志が、人を呼びよせるのでしょう。社会起業家には、「志」も必要だと言えますね。

【友田】  「KIBOW社会投資ファンド」は、地域と起業家、行政とビジネスなどのつなぎ役になりそうですね。
 ライフステージには、さまざまな社会課題があります。例えば、少子化問題が叫ばれるが、不妊治療は自己負担であり、ワーキングペアレンツの保育所問題が解消されていません。また、労働人口の減少が産業界から問題視されていますが、不登校から引きこもりやニート、フリーター化など、また中高年には親の介護問題に直面するなど、社会課題は多様化複雑化しています。それらすべてを行政が税金で解決することはもはや不可能です。私たちが少し視野を広く持てば、地方には同じ課題があることに気づき、その解決方法が示されれば、それらは横展開することで解決できる可能性があります。
 「社会的インパクト投資」は、そのような一つの社会課題の解消モデルを横展開する際に非常に有効だと思いますが、実際に経済的利益は生まれるものなのでしょうか。

【山中】  世界的には実証されています。2007年にコンセプトが紹介されてから、投資規模は数年で360億ドルに拡大しました。それが、2009年に500億ドル、2019年には10倍の5000億ドルになるとの予想もあります。また、2015年のGIINによる分析では、1998年から2010年までのインパクト投資ファンドの平均収益率は、6.9%であることがわかりました。
 今後、日本でも経済的な利益が出るという仮説を証明できれば、社会起業家にはもっと資金が流れ込むと思うのです。私たちファンドは、リスキーなベンチャーに投資する意欲を持っていますから、ハイリターンでないとパフォーマンスのバランスが取れません。そのため現時点での投資対象は、キャピタルゲインを創出可能な、「株式会社」に限定しています。近年、NPOからも社会をいい方向に突き動かす起業家が出てきていますので、20億円規模の運用を目指す2号ファンド以降は、世の中の情勢に合わせて条件を変えていくかもしれません。

【友田】 まちの活性化のためには、地元の企業やNPOが、地元の人から信頼を得ることが大切だと感じています。働き口が少ない地方は、若者が都会に流れてしまい、更に働き手が足りなくなります。

【山中】会社が地域に支えられていることを知った経営者の話があります。仙台校の受講生には、かまぼこ工場を経営する方がいました。津波の後、まちの人たちが工場に避難して寝泊まりしていたそうです。しかし、避難して数日が過ぎたとき、工場の機械が稼働できないことに気づいた人たちが、会社のために自ら工場から出て行ったそうです。そのとき受講生の経営者は、企業が地域に尽くさなければならないという意識に変わったといいます。

【友田】 企業は地域社会と切り離せないものですからね。企業は社会的な存在なので、社会がうまく機能していないと、ビジネスはうまくいかないものです。
 企業のCSRの取り組みで多いのは、日本では環境分野、ヨーロッパでは人権分野となっています。その理由は、企業と社会の関係性にあると考えています。ヨーロッパは大陸続きで移民がいつの時代も問題になっています。一方、日本では1960年代の公害問題で企業の責任が大きく問われた歴史があります。企業に必要なことは社会との対応力であり、長期的にみて、いかに地域社会の人たちから信頼を得るようなことができるか、いわゆる“愛され企業”になれるかだと思います。

【山中】社会に愛されるためには、企業は社会に投資をする必要があると思います。これからは、企業による社会目的の事業や、他社への投融資といった、「コーポレート・ソーシャル・インベストメント(企業の社会的投資)」という概念を、広めたいと思っています。
 グロービスの「ヒト・カネ・チエ」に優先順位があるとしたら、まず経営者には、戦略のディスカッションのために知恵を身に着けてほしいです。そうすれば、そこに資金の流れが加わり、よい人材との出会いも生まれてくるでしょう。知恵を提供するというのは上から目線にも感じますが、実際には、私も学ぶことが多くあります。みなさんには、ディスカッション相手・パートナーとしてグロービスを使っていってほしいです。
 今後の「KIBOW社会投資ファンド」運営にあたり、どういう社会課題があって、どういうベンチャー企業や社会起業家がいるのかなど、まだ目に入っていないことがたくさんあると思います。地域の資源や技術を活かして活躍するさまざまな人たちと出会えるよう、多方面の協力を得ながら前進していきたいです。

【友田】 「KIBOW社会投資ファンド1号」は、社会を変革する確かな一歩を踏み出したと言えますね。まちと人と仕事とのつながりが社会的・経済的利益をもたらすように、今後のさらなる発展を期待しています。ありがとうございました。


 

一般財団法人KIBOW http://kibowproject.jp/


 

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